俺の息子にスリーパーホールド

雑記をベースにたまに息子とのやりとりを書いていきます。色んなもののレビューも興味あり。

警察車両で凱旋

ここだけの秘密ですが。

巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。

困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思って。

今日は猛暑日ということで軽くやっつけでパパっと片付けちゃうかと。

池袋周辺を歩いていると、何やら叫び声がする。

チャンス!

一日一善をモットーとしている俺としては声のする方へ一目散に駆け出す。

路行く人を押しのけ、跳ね飛ばし、黒い風のように走る。

西口公園で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人達を仰天させ、犬を蹴飛ばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の10倍も速く走る。

俺が行かなきゃ誰が誰が行く。

待ってろよ、セリヌンティウス!

ひとしきり走るとまたしても叫び声が。

まずい太陽が沈みきってしまう。

ようやく声の主とご対面だ。

ん?

目の前で女が男とイチャイチャしている。

 

やだー、もうー。

約束の時間にギリギリ来ないでよ。

ほんと心配したんだからー。

勘弁してよー。

いじわるー。

ってか、その目エロスー。

 

・・・

 

既にメロスは到着していたようだ。

もうちょい早く教えろと。

なんか後ろから怒号が聞こえるんだよね。

そりゃ、そうだよな。

宴席を土足で駆け回ったからね。

やんのかこらぁーとかドス黒い声で叫んでるし。

もうやっちゃいました、とか答えたら、やんのかこらぁーってなってるし。

いや、だからもう後の祭りなわけ。

存分にビールとか枝豆なんか蹴っ飛ばしたしね。

とはいえ、このままここにいると俺がセリヌンティウスになりそうだ。

しかも、やつは明らかにメロスのような義のために走っていない。

俺はまた風となり、駆け出す。

待てこら男とヒーローの追いかけっこに発展。

意外に人の多い池袋の北口あたりをメッシのごとくボディフェイントで駆けていく天馬。

途中、酔っ払いのおっさんを軸にして、ひょっこりはんしながらついに俺は東口に辿り着く。

なかなか振り切れない。

おかしい。

いつもの俺なら2、3杯飲んでも軽くトイレでもどせば復活するほど強いのに。

なんか足が重いと思って下を見ると下駄を履いていた。

ははは。

乾いた笑い声が東口に響き渡る。

そうこうしてるとやつがすぐそばまできているではないか。

俺は慣れた感じで、サンシャインを目指す。

そして、左へ曲がりヲタの聖地へと足を向ける。

目の前のビルの階段を一気に駆けのぼる。

やたらと足音がうるさいと思ったら俺だった。

下駄いらなくね?と思うがこれもハンデ。

頂上にひらりと降り立つとウエストポーチから折りたたみメイドごっこ2019を出す。

素早く両の手で器用に着替える。

スカートを忘れたことに気づく。

しょうがないので海水パンツで代用する。

そして、ボストンバッグから化粧ポーチを取り出し、入念なメイク開始だ。

最後は紫の愛くるしい口紅をつけ、んぱっんぱっとやって終了。

どこからどうみても変態の完成。

さぁ、来るなら来い。

こちとら最初っからネジは飛んでいるから容赦しない。

きた。

ついにやつと感動のご対面。

てめー、やっとつかまえたぞー、とか言いながら右の拳をあげてるんすけど。

ちょっと待て。

お前の目の前にいるやつは完全にヤバいやつだぞ。

仮に俺がお前の立場なら・・・

ガスッ

景色がグニャッとゆれる。

どうやら俺は殴られたようだ。

コンクリートと血の味がする。

いかん。

俺はすぐに態勢を立て直し、ボストンバッグに手を入れる。

んぱっんぱっ。

よし。

口紅も塗り直して準備万端。

ん?

振り向くとやつはもういない。

ふふ。

圧倒的完勝とでもいおうか。

俺はゆっくりと階段を降りる。

遠くからファンファーレの音が鳴っている。

勝者の証か。

 

・・・

 

そして、俺はゆっくりと連行された。

 

とあるマンションでのカラオケ大会 -ヒーローもたまには休息-

ここだけの秘密ですが。

巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。

困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思ってですね。

あれっ、遠くから俺を呼ぶ声がするんだが。

強いテラを感じる。

誰だあれは。

若い女がニコニコしながら近づいてくる。

何か言っている。

何やら黒い影が俺の後ろに見えるらしい。

それを払うために一緒にお祈りしましょうと目を閉じている。

優しい女だ。

まさか俺に好意があるのか。

新たな出会いに乾杯しよう。

何分かすると女は周りの音がうるさすぎて上手く祈れないと言う。

静かなところでないと邪気は出ていかないらしい。

何処までも優しい女だ。

俺は女神の後をついていく。

どこかのマンションらしい。

おいおい。

流石に、流石にこれはヒーローらしからぬ展開になりそうだ。

玄関には複数の靴が乱雑に散らかっている。

しょうがないやつだ。

少しだけ匂いを嗅ぎつつ靴を揃える。

奥から声がする。

俺を呼んでいるようだ。

ふぅ、仕方がない。

ドアを開けると男が2人いる。

祈りましょうとしきりに声をかけられる。

何だ何だ。

見ず知らずの俺にみんな祈ってくれるのか。

世の中捨てたもんじゃない。

俺は言われるがままに祈る。

口に出さないと邪気が外に出ないと言う。

どんな言葉でもいいらしい。

俺は大きな声でラジオ体操第一を唱える。

例の女はうーえーをむーいてー、あーるこーうぉうぉうぉーと熱唱している。

街で見かけたら絶対近づきたくないタイプだ。

男Aは1日1歩3日で3歩とか牛歩戦術の歌を熱唱してる。

と思ったら、3歩進んで2歩さがるとか言いだす。

1日1歩かと思ったら、3歩進んで2歩さがるとかドラマチックな説明も加えてくれる優しいやつだ。

男Bは暗闇であなたの背をなぞったーとか、ストーカーの歌を熱唱してる。

まさにカラオケ状態。

俺も負けじとサビの部分を熱唱。

足を横に出してー、斜め下に深く曲げてー。

その時、男Aが俺の方を見てニヤリと笑うのを見逃さなかった。

多分、できるやつと思われたに違いない。

さらに俺は歌を続ける。

開いて閉じて!開いて閉じて!

女、男Bが俺の方を見て、目を丸くしてる。

なんか分からないが、邪気がどんどん外に出ていっているようだ。

女が急に選曲を変える。

おーとこにはー、自分のー、せかいがーあるー、例えるならー。

何故かここで黙る。

おいおい。

例えるならなんなんだ。

女は俺の方を見て、くいっくいっと首を縦に振っている。

俺への挑戦状か。

男A、Bも女と張り合って選曲を変える。

デュエットで今度は攻めてくる。

さよならはー、いつまでたってもー、とても言えそうにー、ありーませんー、とか日本語を覚えたての幼児の歌を熱唱。

ならば俺はこいつでいこう。

はじめてーのー、チュー、君とチュー、うふふ。

みんなが拍手をしている。

グランプリ獲得といったところか。

俺は満足して、後ろからの惜しみない拍手を背に颯爽とドアを開けて外に出る。

帰ろう。

風のみが奏でる夏の空を存分に楽しむ。

俺は歩きながら思う。

 

ってか、マンションの方がうるさくねぇ?

 

今日の出来事について人から聞かれても答えられる自信は無い。 

 

加齢臭にまつわる話

先週久し振りに実家に帰った我が家。

朝4時起きからの東名高速で名古屋へ。

途中に眠気が襲ってきたが出てきたがそこは持ち前の加齢臭で何とか乗り切る。

加齢臭って聞くとみなさん首を傾けたくなるほどのどちらかと言うと御免こうむりたいレベルの話だと思う。

まず、あの独特な匂い。

ツーンと鼻にくるやつ。

俺もどちらかと言うと臭い方ではあるが、例えるならそうだな。

レアルかバルサかと言ったら多分レアル寄りの匂いだと思う。

そんな世界規模の匂いを車内に充満させる俺は国宝級として扱われても異論はないはず。

息子のまるは、流石に朝が早すぎたこともあって車内でもぐっすりと寝ていた。

もちろん栄養として加齢臭が一役買っていたのは言うまでもない。

みんなが気になるあの匂い。

あいつってさ。

後から来るよね。

左右にブンブン首を振った後に数秒遅れてやってくる。

でも思うんだ。

香水なんて野暮なことはダメ。

あなたのまんまをぶつけなきゃ。

耳の裏から漂うそれは、時にフェロモンとして扱われる。

男も女もこのフェロモンとかいうやつが判断を鈍らせる。

例えばだ。

目の前に天使のような20代の女の子がいるとしよう。

ただし、加齢臭はMAXだ。

しかしながら、世の中の大半の男は加齢臭とは思わない。

フェロモンだと言い張る。

人は不思議なものである。

そう言えば最後に息子のまるとのやりとりを備忘録的に残しておこう。

 

あのね、パパ。

なんかさぁ、パパの枕が汗臭い。

 

違うよ。

俺は最高の男だから、最高の匂い以外ありえない。

 

何言ってんの、中年のおっさんが。

 

中年のおっさんじゃないよ。

パパだよ。

何となくそこらを歩いてる中年のおっさんじゃなくてパパだよ。

それにまだ22歳だよ。

 

こんな白髪だらけの22歳がいたら引くわ。

 

スーパーサイヤ人ホワイトになろうとしてるんだよ。

相当かっこいいよ。

 

パパさぁ、白髪染めすれば?

昔はもっとかっこ良かったよね。

 

あのさぁ、まるも大きくなったら目の前のおっさんみたいになるんだよ。

シミと白髪も増えて。

 

僕ならないよ。

ツルッツルのままだから。

 

・・・

 

とまぁ、くだらない話を続けているのが日常風景。

特にオチはなくあくまでも備忘録ということで。

拝啓、リュウソウジャー様

ここだけの秘密ですが。

巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。

困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思ってですね。

今日はいなげやあきる野店特設ステージにお邪魔してます。

結構お客さんいますね。

 

おほん。

みなさんこんにちはー、ヒーローでーす。

 

・・・

 

いいね、この盛り上がり。

かつて無いほどの手応えを感じてるわ。

いつものやつやりますか。

 

えー、今日は忙しいところありがとう。

じゃあ、まずは元気を出すためにお兄さんについてきてね。

 

・・・

 

かーさん、おかたをたたきましょー。

ヴゥーン、ヴゥーン、ヴゥーン。

 

・・・

 

やばい。

反応が薄い。

10年以上このネタをやってきたが、そろそろパッションも限界か。

だいぶ胸も痛いし。

これなら最初のつかみは山本太郎と山田太郎のくだりを話すべきだったか。

まぁいい。

それより気になるのがさっきから子供たちが大きな声で叫んでるんですよね。

リュ、リュウソウジャー?

電子ジャーの仲間なのか。

うろたえたことを気付かれないよう、ほんとは魔封波を軽やかに決めたかったが、何故か俺の第6感というか、単行本第13巻というかおもっきしすべると言って聞かない。

俺もたまには折れるか、と定年間近の亭主関白に想いを馳せた。

スマホで調べてみる。

ほーう、俺以外でヒーローを名乗る奴らがいるとは。

ステージの垂れ幕をよく見ると騎士竜戦隊リュウソウジャーがここあきる野にやってくる!と書いてある。

まさかとは思うが、俺はスケジュールを間違えたらしい。

裏の休憩室からちょこちょこ被り物してこっちを覗いてるやついるなと思ってたんですよね。

この変態めっ、とか思いながらヴゥーンって胸叩いてましたよ。

変態の座を欲しいままにしてたのは俺の方だったんですね。

さて、まぎれもないヒーローの俺としてはこの窮地を颯爽と切り抜けたい。

何とかパッションとリュウソウジャーを結びつけられないか考えた。

さぁ、おじさんは誰でしょう?とか子供たちに雑な質問を投げて時間稼ぎをする。

リュウソウジャー。。

この前たまたまテレビで見たあれがリュウソウジャーだったのか。

確か変身の時の掛け声がノリノリだったな。

やろう、やってやろう。

 

みんなー、おじさんが誰か分かったかなぁー。

そうか、じゃあこれ見たらどうかな。

 

・・・

 

かーさん、おかたをたたきましょー。

ヴゥーン、ヴゥ。。。

あっ、違う違う。

ごめん、ごめん、こっちね。

おほん。

わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。

 

・・・

 

会場は無反応である。

なんだろう。

なんか凄い屈辱感。

齢60歳を超えて俺は何をやっているのだ。

なんか俺がすべった感じになっている。

断じて違う。

間違いなくリュウソウジャーがすべったのだ。

何がわっせいだ。

ん?

ふと、後ろから声がする。

 

わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。

 

被り物した奴らがついに登場してきた。

すると会場から物凄い歓声が起こった。

なんだ。

俺と何が違う。

確かに俺の上半身は裸で、サングラスとふんどしを着用している。

でも、ちゃー?とかふざけたことは一切言ってない。

見た目だけで判断される世の中。

悔しい。

俺はとてつもない敗北感にまみれて、会場を後にした。

 

・・・

 

数日後。

場所は千駄ヶ谷の将棋会館のステージ。

俺は練習の成果を試した。

 

わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。

 

・・・

 

高齢者からの無言の圧力。

子供は皆無だ。

客層を間違えたようだ。

土地柄か客層の上品さが漂う。

俺は背筋を伸ばし、ネクタイも締め直した。

 

 

そして、俺は静かにふんどしを脱いだ。

 

敬具

フォートナイトでビクロイ

息子のまるがゲームにハマってる。

その名はフォートナイト。

基本プレーは無料でいわゆる銃とか弓とか武器で敵をオンラインで倒していくゲームだ。

課金はアバターの装飾品など。

まるはスイッチ、俺はスマホで一緒のチームで戦うこともしばしば。

今までサッカーだろうが、徒競走だろうが、足の臭さだろうが、まるに負けることはなかった。

だが、これだけは話が違う。

何度やっても負けてしまう。

確かにスマホの操作性で不利なのは否めない。

にしてもだ。

明らかに足手まといになっている。

たまにまるの友達と4人チームになってビクロイ、つまり優勝を目指すのだが特攻隊で敵に30ほどダメージを与えては死にそうになり、仲間に復活させてもらう。

俺の地位も地に堕ちた。

サッカーチームの子の仲間が多く、たまに一緒にサッカーもやっていた。

完全なるフィジカル差で王様のように優雅にプレーして、子供の淡い希望をズタズタにしてきた俺。

フォートナイトのせいで完全に下に見られるようになった。

なんならカス呼ばわりまで。

カスってあれですわ。

俺の中で、クズ、カス、クソなど色々あるキーワードのぶっちぎり下。

あぁ、こうやってカーストが作られていくんだと実感した。

ゲーム業界も親子の接点を持つためのゲームという観点から、親を優遇するようなステータス追加とかもう少し考えて欲しい。

昨今親子の関係が希薄になり、醜い争いでニュースを賑わすのも目にする。

もしかしたらゲームによって変えられるかもしれない。

思春期になっても親と笑いながら一緒にゲームに興じる。

そういうくだらない思い出が、後に最後の一線を超えさせないこともあるのではないか。

俺はすぐに行動をおこした。

まずはゲーム業界の調査だ。

仕事の時間も削り、世の子供のため、親のために奔走した。

寝る間も惜しみ、大切なお客との打ち合わせにも代理としてPepper君に任せた。

雨の日も風の日も地震の日すら地割れを飛び越えて走った。

だんだん俺は神々しい能力も身についてきて、モーゼと肩を並べるくらいになった。

山折りにして立てた折り紙を右手で両のほっぺたを撫でてから、近づけると折り紙が進むなんてお手の物。

そしてついに俺はフォートナイトの製作会社に連絡することを思いついた。

何事も最後までやり遂げろと息子のまるには言ってきた。

梅干し以上に酸っぱく。

ごくり。

言ってやる、思いのたけをぶつけてやる。

運命のご対面。

ホームページに無表情で羅列された電話番号を二度見しながら慎重にスマホを押す。

プルルルル

 

Hi, how may I help you?

 

・・・

 

俺は静かに通話終了ボタンを押した。

 

 

 

 

封印されたドア

はい、そうです。
何度も言いましたが。
そっちの臭いのキツイ有機物とは違います。
外見が似てるのでよく間違われます。
私、味噌です。

と言っても味噌の弟です。

兄はお世話になったとつぶやきながら逝ってしまった。

私には夢がある。

いつか人間の判断ではなく、自分のタイミングで調理されたい。

冷蔵庫の前に陣取れば、今日は味噌使おうかなと思ってくれるはず。

その大体の位置どりまでは掴めた。

あとはその時が来るのを見計らっている。

結局味噌に生まれてしまった以上、最後には人間の中に収まるか、ゴミに捨てられるかの二つしか選択肢がない。

こんな世の中を恨んだこともあるが最近は穏やかな気持ちでいられる。

何やら自分でも気付かないうちに悟ったようだ。

右を見ても左を見ても、怯えているものばかり。

そんな様子を一歩後ろから平然と見られるようなった。

ここまで来るのには苦労しましたよ。

ある日、外から何やら変な匂いが漂ってきた。

明らかにおかしい。

そう思ってもドアを開くことは出来ない。

人間の音も聞こえない。

ただ、シューシューと何かが言っている。

焦げた匂いというのか。

だんだんその音も大きくなり、何かが揺れる音まで聞こえるようになった。

なんだろう、これは。

すると。

バァーン。

とけたたましい爆発音がなり、ドアがビリリと振動している。

焦げた匂いはますます強くなり、冷蔵庫の中にも激しく侵入し始めた。

まずい。

これは火事だ。

まさかこのような終わり方は想定していなかった。

熱い、体が焼ける。

何故かいい匂いもしてきた。

意識が朦朧としてきたが何とか最後のところで踏ん張った。


どの位経ったであろうか。

外が騒がしくなった。

人の声が聞こえてくる。

調理中に火をかけっぱなしだったことを詫びていた。

どうやら火事はおさまり人間は助かったようだ。

ふと周りを見ると野菜などは萎びてしまい生きているのか死んでいるのかも分からない。

助かった。

私は急いで例の場所に動いた。

この時しかない。

この時を逃したらもう調理すらされないだろう。

動き終わったと同時だった。

冷蔵庫のドアがおもむろに開く。


あー、こりゃダメだ。

みんな熱で腐ってる。


人間の声が冷蔵庫内に響き渡る。

私は声を張り上げて人間に叫ぶ。


私はまだ食べられる。

腐ってなどない。


人間に通じたかどうかは分からないが私は取り上げられた。

久々の外の世界だ。

まだ焦げた匂いが充満しているが気分は悪くない。

目を閉じた。

多分味噌汁あたりで使われる可能性が高い。

そう思った瞬間、鷲掴みにされゴミ箱に落とされた。

違う、断じて違う。

私はまだ生きている。

まだ食べられるんだ。


・・・


ふと目を覚ますと何かの車に乗せられたようだ。

ゴォォーという音が近づいてくる。

周りからグシャ、グシャという音も聞こえ出した。

次の瞬間。

目の前が閉じた。


重い何かが私を押し潰した。





YouTuberプロダクションへの転職

今日から生まれ変わる。

もうこんな日常からはおさらばしたい。

何をやっても上手くいかなかった日々。

思い出すだけでも泣けてくる。

神様はきっといる。

今日の戦いの場はYouTuberプロダクションだ。

落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。

大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。

よし、行こう。

 

では次の方、面接しますのでどうぞ。

 

はい。

モウリーニョと言います。

はい、ニックネームです。

俺としては本名とどっこいどっこいな感じです。

はい、佐藤です。

すいません。

かしこまりました。

では自己アピールさせて頂きます。

素の俺をみて欲しいのでありのままをぶつけても良いですかね。

下ネタも交えながら。

あっ、分かりました。

それは省きますね。

裸と裸のぶつかり稽古のくだりもダメでしょうか。

はい、分かりました。

ではアピールを始めさせてもらう。

おほん。

 

 

巷で俺はYouTuberと呼ばれている。

かれこれやり始めて3年経つ。

はい、どうもーから始まるヤツだ。

大半のネタは、水に濡れたものを通行人にあててみたシリーズかな。

色んな人の色んな叫び声が聞こえてさ。

なんていうかな、偽りのない気持ちが出る瞬間ってこれしかないって感じで。

それ以外のネタはじゃんけんの定義を変えるシリーズかな。

確かグーチョキパー以外のもう一つがやっと出来たところで運営にBANされてさ。

BANの理由が、それを世間に公表すると命に関わるとか言われて。

なんか世界がごそっと動くからやめてくれと。

出生率にも影響すると言われれば流石に引くしかなくて。

でも金銭的な要求はしたわけ。

補填的な意味で。

そしたら大義名分はどっちだとか運営と水掛け論になってね。

最後は公平にじゃんけんだーとかなって。

向こうがチョキでこっちがトゥースなわけ。

つまり完全無欠で俺の勝ち確だったのよ。

でも決着がついたと思ったらそいつがごそっと動いてさ。

なんか泡吹いてるから、黄色いハンカチをあげたのよ。

 ご丁寧に返すっていうから、ベランダにでも干しておけば勝手に取りに行きますよって。

そんなやりとりが3時間ほど繰り広げられて今に至るわけだ。

もう運営に振り回されるのはこりごりでさ。

プレイヤーには興味を失ったのよ。

だから、今回俺は運営側に立って黒いものでも白と言わせたいなと。

そうそう、今の君の表情のようにムスっとした空気を出してプレッシャーかけたいのよ。

そんなわけだからサクッと面接を通してもらえるとこっちとしては渡りに船というか。

まぁ、落ち着いて。

細かいことは置いておいて重要なのは俺のポテンシャルでしょうが。

多分だけど、君の考えてるもう2歩先に進んでるとみていいよ。

企画書書かせたら俺の右に出るやつはいないと思う。

えっ、例えば?

そうだなぁ、この面接のやりとりを公表してさ、プロダクションの名をみんなに知ってもらうとかどうかな。

みんなが知らない運営側の世界感をさ、なんていうかおどろおどろしいテーマ曲で煽ってさ。

お前もこっち側に来ないか?

とか最後に決め台詞を言うのよ。

YouTuberへのプロモーションにもなってさ。

あっ、大丈夫、大丈夫。

ICレコーダーでこの面接全部録音してるから書きおこしは俺がやるし。

えっ?消せって?

コンプライアンス?

あぁ、また難しい言葉で攻めてくるのか。

水掛け論になりそうだわ。

おっけ。

じゃんけんで俺の採用決めとく?

人材の当たり外れなんかくじみたいなもんでさ。

じゃんけんで決めてもそんなに乖離しないかなと。

長年の俺の勘がそう叫んでるんだわ。

よしっ、最初はー。

あっ、ちょっとどこ行くんすか。

面接終了ってまだあと20分くらいのネタ仕込んでるんですけど。

まぁいいや、途中は省いて長年ストーカーし続けた女子との感動の和解シーンから始めとく?

あっ、分かった分かった。

省き過ぎたからね。

じゃあもう少し遡ってさ。

俺が自民党と民主党のどっちで立候補しようか迷ったあげく結局マニュフェスト考えるのがめんどくさくなってやめた話。

これが傑作でさ。

あっ、伝わらない?

では、とっておきの話でもしようか。

なかなかこの歳になると出会いもなくてね。

画期的な方法を思いついて。

電信柱に、この佐藤探してます!みたいな紙をペタペタ貼ったわけ。

そしたら妙齢の女性がさ。

あっ、ほんと待って。

まだあるのよ、ネタが。

低反発枕の憂鬱って話があってね。

 

それでは面接を終わります。

追って合否の連絡をします。

ありがとうございました。

 

スタスタスタ

ガチャッ

スタスタスタ

 

・・・

 

トゥース

 

スタスタ・・ズ、ズゴゴゴゴゴ・・

プシュンッ

 

See you next life.

 

公衆電話の憂鬱

こんばんは。

お待たせしました。

お悩み電話相談コーナーの時間です。

今日のゲストは。

公衆電話さんです。

すでに繋がってますのでどうぞ。

もしもーし。

 

こんばんは。

ビバオソヒデと言います。

親からつけられたありがたい名前です。

 

こんばんは、ビバさん。

それではお悩みをチャチャっとどうぞ。

 

なんか雑な司会者ですね。

まぁいいでしょう。

一つ聞きたいです。

あなたは最近公衆電話使ってますか?

 

いいえ。

金輪際使うつもりは毛頭ありません。

 

そうですよね。

ぐうの音も出ないです。

みんな私を忘れていくんだなと最近寂しくなりまして。

昔は良かったですよ。

ポケベルの時代なんかぶかぶかの靴下履いた女の子がワイワイ言いながらボタン連打してくれましたから。

今なんてレアキャラ扱いですからね。

あっ、まだあったんだー的な。

はぁ、嫌な世の中になりましたね。

 

なるほど。

確かに最近公衆電話を見ないですね。

私も昔はテレホンカード片手によく利用してました。

 

ですよね!

テレカです、テレカ。

よかったぁ覚えてくれてた。

みんなまだ持ってるんですかね。

昔は良かったなぁ。

イラン人が色々支援してくれて、テレカ界隈は盛り上がってましたからね。

ボリュームディスカウントだぁつって、10枚1000円とかで売ってましたよ。

おいおい、イラン人。

大丈夫かよ、そんな大盤振る舞いで。

とか言ったら優しい目でこう答えてくれたなぁ。

"たいちょうぷです。

わたしたちともたち。"

じーんときたよ。

友達の輪ってこんなところにもあるんだなぁって。

あいつらインド人と同じで嘘つかないでしょ。

今頃何やってんのかなぁ。

 

すいません。

悩みはなんでしょう。

公衆電話をみんなが忘れたから思い出すようにしたいのでしょうか。

それともイラン人の行方が知りたいのでしょうか。

 

うーん。

どちらかというとイラン人の行方の方が気になりますね。

 

分かりました。

今、イラン人はタピオカ周辺に生息してます。

 

えっ、あの黒いやつのことですよね。

やるなぁ、イラン人。

目の付け所がナイス。

そうか、タピオカかぁ。

 

はい、原宿辺りで国の許可を得て路上販売してます。

わたしたちともたち、とか言いながらビニール袋に入れたタピオカ100粒を500円で売ってますよ。

勿論、中身は正露丸なんですけど。

 

それって、バレないですかね。

正露丸って臭いやつですよね。

確かに黒いけど。

 

私も良く知らないですが、インスタ映えとか言って正露丸をストローで啜るのが流行ってますよ。

おかしな世の中になってきましたね。

ビバさんも今度原宿に行けば彼らに会えますよ。

 

ありがとうございます。

悩みは解決出来ました。

 

それではお時間となりましたのでこの辺でおさらばします。

本日のゲストは廃棄物間近の公衆電話さんでした。

 

おいっ、ちょっと待

 

プゥープゥープゥー・・・ 

 

 

サブスクリプション型ヒーローの考察 その2

前回までのあらすじ

 

囚人Aはいつも通り動くのをやめた。

普段左足からそいつ目掛けてジャンプするが、今回は右足からいった。

するとどうだろう。

眩いばかりの光が刑務所を包みこむではないか。

 

www.sleeperhold.net

 

 

・・・

 

あの。

先程から人の席の前でずっと立ったままなんですが。

何をぶつぶつ独り言を言っているのでしょうか。

匂い立つとか、右に7歩とか、斧を振り上げてとか、雨はまだとか、前回までのあらすじとか、囚人Aとか。

どちら様でしょうか。

 

はっ、これは申し訳ないです。

私、こう見えてヒーローなんです。

サブスクリプション型ヒーロー、略してサブヒーロー。

 

あぁ、依頼させて頂いた方だったんですね。

サブヒーローさん、こんにちは。

 

こんにちは。

サブなのにメインでやってます。

・・・

あっ、いいです。

ドヤ顔してすいません。 

ところで今日も告白されたのでしょうか。

 

はい。

つい先程も店員から。

もう怖くて怖くて。

1ヶ月間だけ一緒に過ごして頂けないでしょうか。

もちろん、寝る場所は別にしますので。

 

なるほど。

漫画みたいに急な展開ですが承知しました。

もう安心してください。

何せ泣く子も黙るヒーローですから。

特に赤ん坊には滅法強いです。

・・・

いえ、大丈夫です。

ドヤ顔してすいません。

とにかくここを出ましょう。

外にいたらいつ告白されるか分かったものじゃない。

 

女の家に着く。

玄関で待機するよう言われる。

 

・・・

 

女の気配がない。

まさかと思い部屋に上がる。

お邪魔しまーす、と言葉を添えて。

 

・・・

 

いない。

その時だ。

上から何か液体が落ちてくる。

見上げると女が天井にへばりついていた。

 

どう?

サブちゃんも一緒に。

 

俺は一目散に逃げた。

やってられない。

あんな得体の知れない女と四六時中一緒にいるなんてごめんだ。

ヒーローのサブスクリプション型なんて考えるべきではなかった。

ホームページにもきちんと告知しよう。

 

News

2019年7月12日 サブスクリプション型終了のお知らせ

満員御礼につき終了します。

2019年7月11日 サブスクリプション型開始のお知らせ

ついに始まる定額制!いつでもどこでも誰とでも。詳細はこちら。

2019年7月10日 サブスクリプション型検討のお知らせ

業界騒然!ヒーローも定額制に。詳細はこちら。

2018年9月13日 日本ヒーロー協会認定試験終了のお知らせ。

替え玉事件発生のため終了します。

2018年9月10日 日本ヒーロー協会認定試験開始のお知らせ。

キャッシュバック制度も充実。詳細はこちら。

2018年6月17日 タピオカ販売開始のお知らせ。

タピオカもどきのレシピも合わせて公開中。詳細はこちら。

 

 

サブスクリプション型ヒーローの考察 その1

ここだけの秘密ですが。

巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。

困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思ってですね。

生活保護に頼ることなく最近新しいタイプのヒーローになったんですよ。

サブスクリプション型ヒーローです。

月額課金制で何度でもあなたを助けます!

かっこよくないですか?

何度でも助けられる。

このご恩は一生忘れませんっ、ていうやつを月に3回くらい言うチャンスもあるんですよ。

こんな感じで他のヒーローと差別化を図ってですね。

そんな時とある未亡人から案件が飛び込んできた。

どうやら毎日色々な人から告白されて怖いから助けて欲しいそうだ。

もちろん仕事とはいえ期待するシチュエーションだ。

とはいえ俺は責任感が強い。

途中で投げ出すような丘ヒーローでもない。

待ち合わせは新宿の喫茶店。

匂い立つほどの女がそこにいた。

いける。

直感でそう思った俺がいた。

 

こんにちは。

 

俺はありったけの笑顔をぶつけてみた。

 

・・・

 

何も返事がない。

すでに死んでいるようだ。

諦め悪く話しかけてみる。

 

ご依頼の方ですよね?

 

女は言う。

右に7歩、左に3歩歩いたところを調べるが良い。

 

何を聞いても同じことの繰り返し。

ロールプレイングゲームの町人Aかと。

 

からかわれたのか。

まぁ、いいさ。

依頼主が途中でバックれることも多々ある。

俺は焦らない。

何故ならね。

目の前の彼女の腕に巻かれた高価な腕時計を見逃さなかった。

おっけーおっけー。

金にちょうど困ってたところだ。

そのうち彼女はつまらない顔をしながら踵を返して向こう側に歩いていった。

周りには誰もいない。

俺は右手で斧を持ち、素早く彼女の背後に回り込むと一気にそれを振り下ろした。

 

ザクッ

 

女は白目を剥きながらも相変わらず右に7歩と言っている。

 

雨はまだ降り続いている。

 

 

 

続く