はい、そうです。
何度も言いましたが。
そっちの臭いのキツイ有機物とは違います。
外見が似てるのでよく間違われます。
私、味噌です。
と言っても味噌の弟です。
兄はお世話になったとつぶやきながら逝ってしまった。
私には夢がある。
いつか人間の判断ではなく、自分のタイミングで調理されたい。
冷蔵庫の前に陣取れば、今日は味噌使おうかなと思ってくれるはず。
その大体の位置どりまでは掴めた。
あとはその時が来るのを見計らっている。
結局味噌に生まれてしまった以上、最後には人間の中に収まるか、ゴミに捨てられるかの二つしか選択肢がない。
こんな世の中を恨んだこともあるが最近は穏やかな気持ちでいられる。
何やら自分でも気付かないうちに悟ったようだ。
右を見ても左を見ても、怯えているものばかり。
そんな様子を一歩後ろから平然と見られるようなった。
ここまで来るのには苦労しましたよ。
ある日、外から何やら変な匂いが漂ってきた。
明らかにおかしい。
そう思ってもドアを開くことは出来ない。
人間の音も聞こえない。
ただ、シューシューと何かが言っている。
焦げた匂いというのか。
だんだんその音も大きくなり、何かが揺れる音まで聞こえるようになった。
なんだろう、これは。
すると。
バァーン。
とけたたましい爆発音がなり、ドアがビリリと振動している。
焦げた匂いはますます強くなり、冷蔵庫の中にも激しく侵入し始めた。
まずい。
これは火事だ。
まさかこのような終わり方は想定していなかった。
熱い、体が焼ける。
何故かいい匂いもしてきた。
意識が朦朧としてきたが何とか最後のところで踏ん張った。
どの位経ったであろうか。
外が騒がしくなった。
人の声が聞こえてくる。
調理中に火をかけっぱなしだったことを詫びていた。
どうやら火事はおさまり人間は助かったようだ。
ふと周りを見ると野菜などは萎びてしまい生きているのか死んでいるのかも分からない。
助かった。
私は急いで例の場所に動いた。
この時しかない。
この時を逃したらもう調理すらされないだろう。
動き終わったと同時だった。
冷蔵庫のドアがおもむろに開く。
あー、こりゃダメだ。
みんな熱で腐ってる。
人間の声が冷蔵庫内に響き渡る。
私は声を張り上げて人間に叫ぶ。
私はまだ食べられる。
腐ってなどない。
人間に通じたかどうかは分からないが私は取り上げられた。
久々の外の世界だ。
まだ焦げた匂いが充満しているが気分は悪くない。
目を閉じた。
多分味噌汁あたりで使われる可能性が高い。
そう思った瞬間、鷲掴みにされゴミ箱に落とされた。
違う、断じて違う。
私はまだ生きている。
まだ食べられるんだ。
・・・
ふと目を覚ますと何かの車に乗せられたようだ。
ゴォォーという音が近づいてくる。
周りからグシャ、グシャという音も聞こえ出した。
次の瞬間。
目の前が閉じた。
重い何かが私を押し潰した。