ここだけの秘密ですが。
巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。
困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思ってですね。
今日はいなげやあきる野店特設ステージにお邪魔してます。
結構お客さんいますね。
おほん。
みなさんこんにちはー、ヒーローでーす。
・・・
いいね、この盛り上がり。
かつて無いほどの手応えを感じてるわ。
いつものやつやりますか。
えー、今日は忙しいところありがとう。
じゃあ、まずは元気を出すためにお兄さんについてきてね。
・・・
かーさん、おかたをたたきましょー。
ヴゥーン、ヴゥーン、ヴゥーン。
・・・
やばい。
反応が薄い。
10年以上このネタをやってきたが、そろそろパッションも限界か。
だいぶ胸も痛いし。
これなら最初のつかみは山本太郎と山田太郎のくだりを話すべきだったか。
まぁいい。
それより気になるのがさっきから子供たちが大きな声で叫んでるんですよね。
リュ、リュウソウジャー?
電子ジャーの仲間なのか。
うろたえたことを気付かれないよう、ほんとは魔封波を軽やかに決めたかったが、何故か俺の第6感というか、単行本第13巻というかおもっきしすべると言って聞かない。
俺もたまには折れるか、と定年間近の亭主関白に想いを馳せた。
スマホで調べてみる。
ほーう、俺以外でヒーローを名乗る奴らがいるとは。
ステージの垂れ幕をよく見ると騎士竜戦隊リュウソウジャーがここあきる野にやってくる!と書いてある。
まさかとは思うが、俺はスケジュールを間違えたらしい。
裏の休憩室からちょこちょこ被り物してこっちを覗いてるやついるなと思ってたんですよね。
この変態めっ、とか思いながらヴゥーンって胸叩いてましたよ。
変態の座を欲しいままにしてたのは俺の方だったんですね。
さて、まぎれもないヒーローの俺としてはこの窮地を颯爽と切り抜けたい。
何とかパッションとリュウソウジャーを結びつけられないか考えた。
さぁ、おじさんは誰でしょう?とか子供たちに雑な質問を投げて時間稼ぎをする。
リュウソウジャー。。
この前たまたまテレビで見たあれがリュウソウジャーだったのか。
確か変身の時の掛け声がノリノリだったな。
やろう、やってやろう。
みんなー、おじさんが誰か分かったかなぁー。
そうか、じゃあこれ見たらどうかな。
・・・
かーさん、おかたをたたきましょー。
ヴゥーン、ヴゥ。。。
あっ、違う違う。
ごめん、ごめん、こっちね。
おほん。
わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。
・・・
会場は無反応である。
なんだろう。
なんか凄い屈辱感。
齢60歳を超えて俺は何をやっているのだ。
なんか俺がすべった感じになっている。
断じて違う。
間違いなくリュウソウジャーがすべったのだ。
何がわっせいだ。
ん?
ふと、後ろから声がする。
わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。
被り物した奴らがついに登場してきた。
すると会場から物凄い歓声が起こった。
なんだ。
俺と何が違う。
確かに俺の上半身は裸で、サングラスとふんどしを着用している。
でも、ちゃー?とかふざけたことは一切言ってない。
見た目だけで判断される世の中。
悔しい。
俺はとてつもない敗北感にまみれて、会場を後にした。
・・・
数日後。
場所は千駄ヶ谷の将棋会館のステージ。
俺は練習の成果を試した。
わっせい、わっせい、そうっ、そうっ、そうっ、わっせい、わっせい、それっ、それっ、それっ、それっ。
・・・
高齢者からの無言の圧力。
子供は皆無だ。
客層を間違えたようだ。
土地柄か客層の上品さが漂う。
俺は背筋を伸ばし、ネクタイも締め直した。
そして、俺は静かにふんどしを脱いだ。
敬具