今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場はYouTuberプロダクションだ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
では次の方、面接しますのでどうぞ。
はい。
モウリーニョと言います。
はい、ニックネームです。
俺としては本名とどっこいどっこいな感じです。
はい、佐藤です。
すいません。
かしこまりました。
では自己アピールさせて頂きます。
素の俺をみて欲しいのでありのままをぶつけても良いですかね。
下ネタも交えながら。
あっ、分かりました。
それは省きますね。
裸と裸のぶつかり稽古のくだりもダメでしょうか。
はい、分かりました。
ではアピールを始めさせてもらう。
おほん。
巷で俺はYouTuberと呼ばれている。
かれこれやり始めて3年経つ。
はい、どうもーから始まるヤツだ。
大半のネタは、水に濡れたものを通行人にあててみたシリーズかな。
色んな人の色んな叫び声が聞こえてさ。
なんていうかな、偽りのない気持ちが出る瞬間ってこれしかないって感じで。
それ以外のネタはじゃんけんの定義を変えるシリーズかな。
確かグーチョキパー以外のもう一つがやっと出来たところで運営にBANされてさ。
BANの理由が、それを世間に公表すると命に関わるとか言われて。
なんか世界がごそっと動くからやめてくれと。
出生率にも影響すると言われれば流石に引くしかなくて。
でも金銭的な要求はしたわけ。
補填的な意味で。
そしたら大義名分はどっちだとか運営と水掛け論になってね。
最後は公平にじゃんけんだーとかなって。
向こうがチョキでこっちがトゥースなわけ。
つまり完全無欠で俺の勝ち確だったのよ。
でも決着がついたと思ったらそいつがごそっと動いてさ。
なんか泡吹いてるから、黄色いハンカチをあげたのよ。
ご丁寧に返すっていうから、ベランダにでも干しておけば勝手に取りに行きますよって。
そんなやりとりが3時間ほど繰り広げられて今に至るわけだ。
もう運営に振り回されるのはこりごりでさ。
プレイヤーには興味を失ったのよ。
だから、今回俺は運営側に立って黒いものでも白と言わせたいなと。
そうそう、今の君の表情のようにムスっとした空気を出してプレッシャーかけたいのよ。
そんなわけだからサクッと面接を通してもらえるとこっちとしては渡りに船というか。
まぁ、落ち着いて。
細かいことは置いておいて重要なのは俺のポテンシャルでしょうが。
多分だけど、君の考えてるもう2歩先に進んでるとみていいよ。
企画書書かせたら俺の右に出るやつはいないと思う。
えっ、例えば?
そうだなぁ、この面接のやりとりを公表してさ、プロダクションの名をみんなに知ってもらうとかどうかな。
みんなが知らない運営側の世界感をさ、なんていうかおどろおどろしいテーマ曲で煽ってさ。
お前もこっち側に来ないか?
とか最後に決め台詞を言うのよ。
YouTuberへのプロモーションにもなってさ。
あっ、大丈夫、大丈夫。
ICレコーダーでこの面接全部録音してるから書きおこしは俺がやるし。
えっ?消せって?
コンプライアンス?
あぁ、また難しい言葉で攻めてくるのか。
水掛け論になりそうだわ。
おっけ。
じゃんけんで俺の採用決めとく?
人材の当たり外れなんかくじみたいなもんでさ。
じゃんけんで決めてもそんなに乖離しないかなと。
長年の俺の勘がそう叫んでるんだわ。
よしっ、最初はー。
あっ、ちょっとどこ行くんすか。
面接終了ってまだあと20分くらいのネタ仕込んでるんですけど。
まぁいいや、途中は省いて長年ストーカーし続けた女子との感動の和解シーンから始めとく?
あっ、分かった分かった。
省き過ぎたからね。
じゃあもう少し遡ってさ。
俺が自民党と民主党のどっちで立候補しようか迷ったあげく結局マニュフェスト考えるのがめんどくさくなってやめた話。
これが傑作でさ。
あっ、伝わらない?
では、とっておきの話でもしようか。
なかなかこの歳になると出会いもなくてね。
画期的な方法を思いついて。
電信柱に、この佐藤探してます!みたいな紙をペタペタ貼ったわけ。
そしたら妙齢の女性がさ。
あっ、ほんと待って。
まだあるのよ、ネタが。
低反発枕の憂鬱って話があってね。
それでは面接を終わります。
追って合否の連絡をします。
ありがとうございました。
スタスタスタ
ガチャッ
スタスタスタ
・・・
トゥース
スタスタ・・ズ、ズゴゴゴゴゴ・・
プシュンッ
See you next life.